子どもはおやすみ

子育てを通じて感じたことと絵本の紹介

絵本の紹介「おたすけこびととあかいボタン (児童書)」なかがわ ちひろ (著), コヨセ ジュンジ (イラスト)

絵本を毎週一冊は紹介したいと考えていたが早くもギャップを作ってしまった。絵本はまだまだたくさん読まされているので紹介したい本はいくつもあるのだが、どれを選ぶべきかは悩ましい。絵本を読んだ後にはそれぞれいくつかの感想を抱くのだが、それはそれこそ絵がキレイ・個性的だなあというものや、奥深い内容だったなあというものから、なんかよくわからんが子供に受けたなあというものまで様々だ。なので、本当にこの絵本はわざわざ見知らぬ人に紹介するほど完成度が高いのか、みたいに思い始めると何かと躊躇する。それに対して、私がいわゆる本を自分のために読む場合、いかに自分の考え方にプラスの作用があったかということに評価は尽きるので単純だ。たぶん絵本は、その幼児向けで分量に制約があるという性質から、ポイントを絞った一点勝負みたいな作品が多くなるのだろう。野球で言えば4冠王のヤクルト・山田ではなくて巨人の鈴木や昔の川相みたいなキラリと光る選手達といった感じだろう。それぞれの本にはそれぞれのクセがあるので、それについての感想を気張らず書いていくということでやっていきたい。

 

ということで今回紹介するのは「おたすけこびととあかいボタン (児童書)」だ。

初見でこの本を読んでいたときは正直流れがよくわからないまま、ただ文章を読んでいた。終盤に差し掛かってやっと話の流れがつかめた感じだった。かいつまんで内容を言えば、人形のウサギの目(である赤いボタン)がとれてしまって、家のどこかに消えてしまったので、それを「おたすけこびと」達に捜索してもらうというものだ。で最後はめでたくみつけてもらう。何てことはない、極めて単純だ。ではなぜこんな単純な話を追えていなかったかというと、この絵本にはテキストがほとんどないからだ。上の私の説明程度の説明さえろくに登場しない。確かに最初の場面は、こびとと、依頼人であるお母さんとの電話で、「もしもし赤いボタンをなくしてしまって、、」みたいなことから始まっている。次のページではこびとたちが「さあ仕事だ」とか言いながら出動する。が、テキストはこれだけで、何が何だかわからない。そんな調子で最後まで「あったあった」とか「やったぞ」くらいの小さなセリフ文が各見開きページに一つずつ提示されるだけだ。初見ではそもそもこびとがこびとであることさえ認識していないので、何のことかさっぱりわからないのだった。

が、途中でぼんやりわかってくる。どうやら、たくさん現れた小さな人間たちが「こびと」であること、そして彼らは何かを探しているらしいこと、それが家の中でなくなった赤いボタンであることがつかめてくる。その理解は、ほとんど絵に依拠したものだ。

 

そういうことだったのね、ということで、我が子にリトライをお願いして続けて2回目を読んだ。次は、少し解説を加えながら。さらにいくつかクイズも出しながら(子供の理解を試すために簡単なクイズを出すのが最近の私の流行りだ)。

この絵本の絵のカットは独特だ。なぜなら視点がこびとのものだからだ。最初こそ部屋全体の構図が示されるが、そのあとはボタンの落ちていた棚の隙間とかにイラストはクローズアップされる。なので最初はどこを描いたものなのかもよくわからない。が、この視点こそがこの本の醍醐味であることに後から気づかされる。子供と一緒に、これが部屋のどこなのかを、最初の全体図と比較しながら議論しながら絵本を読むことができる。部屋のここにあるゴミ箱がこびと視点ではここに見えているんだね、みたいな会話をしたりする。

結局このボタンは捜索の途中で家の水槽に入ってしまう。最後には水槽の魚を別の鉢に移してから水を抜いて、そこの砂を掘り返してボタンをみつけるという大掛かりなものになる。それぞれの場面もやはり説明文はほぼ皆無だ。これについてどういうことか子供とコミュニケーションをとりながら読み進んだ。

2回目の朗読で、私も子供も理解が進んだ。また間をおいて3回目、4回目と読んでいった。それぞれまだよく理解できていないところは適宜コミュニケーションをとりながら。

 

ということで、この本は親にとってはディマンディングな絵本だ。子供の年齢にもよるだろうが、ある程度言葉のわかっている子供にとっても本書のテキストと絵だけで理解するのは難しいのではないだろうか。文は極小だし、絵もこびとの視点でトリッキーなものだからだ。なので、その内容を理解したいと思った場合、どうしても親による解説は必要になるだろう。ただ一方で、そうしたトリッキーな構図と過少なテキストのおかげで、謎解きのような楽しみが得られる。それを通して、本を朗読する大人と子供の間で楽しいコミュニケーションをさせてもらえる、本書はそんな絵本だった。どうやらこの本はシリーズものらしく、あるいはその2冊目として読むとこうした感想もまた違ったものになるかもしれないが、別のお話も読んでみたいと思った。

 

最後に、冒頭に本が自分にプラスになるかどうかが私の本の評価軸であると書いたが、絵本についても子供にとって何かプラスの発見があるかどうかというのは一つの視点になり得るだろう。そういう意味でも、「こびと視点のイラスト」をじっくり見せていくこの本のスタイルは子供にとっても新鮮なものであったようで、良かったと思う。